【象の消滅/村上春樹】 あらすじと感想
日が空きましたが、
『パン屋再襲撃』の短編集に収録されているものの1つで、
いろんな言語で翻訳され、数多くの国の人が今や手に取っているそう。
まずは
【あらすじ】
ある日、象は「消滅」したのだった-。
「僕」は5月18日の朝、毎日のルーティンとしてコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。すると奇妙な記事が目に入った。 象とその飼育員が脱走した、そこにはそう書かれていた。古い動物園の財政難の理由から、町が引き取り飼育している、その年老いた象と飼育員に、僕は以前から関心を寄せていたのだった。
もう一度記事を読み直してみたが、脱走なんかしていないことは一目瞭然である。第一に、象の足にかけられていた鉄の足枷が、鍵をかけられたまま残されていたこと、第二に象が通れるほどの大きさの脱出経路は周囲には存在しないこと、第三に二人の足あとが全く見当たらないという問題がある。なのにメディアや警察は一向に脱走したものとして報道、捜索するのだった。
いいや、明らかに象は「消滅」しているのだ。
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9月も終わりに近づいた頃、「僕」は勤め先の会社のパーティーで、ある女性雑誌編集者と出会う。話が意気投合したふたりは、そのホテルのラウンジに出かけ、そこで僕は彼女に象の話をする。雨の降る夜だった-。
わたし村上春樹さんを好きになったのはちょうど2年前くらい、
以前は一部のコアな読書好きが手に取るお堅いイメージがあって
どうもとっつきにくくって。
でも書店で【ラオスにはいったい何があるというんですか?】
という紀行文集を立ち読みしてみると、もう世界観にどっぷりはまってしまって
時間を忘れてページをめくっていました、
懐かしい思い出です。
話がわき道に逸れてしまいましたが、この「象の消滅」が収録されている
「パン屋再襲撃」短編集が、私にとって村上さんの2冊目の本でした。
今でも好きでたまに読みなおす作品です、短いし、気軽に読めるんです。笑
しかも今度映画化される「ハナレイ・ベイ」より
何となくとっつきやすいと思います、
あっ!でも、村上さんの本は難しいので私は3,4割の理解でいつもやっています笑
さあ本題に入りますと、私がこの作品が好きな理由、
それは
「象の消滅」をテーマに据えながら
「統一性」「便宜的」というこの世の中を包む
「あたりまえ」に深く静かに踏み込んでいると感じるからです。
消滅、という理論では片付かないものをなかなか認められない世間、
そして時がたてばそれを「謎」として闇に葬ろうとする世間。
「僕」は気づいてしまった
僕は相変わらず便宜的な世界の中で、便宜的になろうとすればするほど数多くの人に受け入れられていく。
おそらく人々は世界というキッチンの中に、ある種の統一性を求めているのだろう。(本文抜粋)
そして「僕」は
何かをしてみようという気になっても、その行為がもたらすはずの結果と、その行為を回避することによってもたらされるはずの結果との間に差異を見出すことができなくなってしまった。(本文抜粋)
ここで実は「僕」、彼らの最後の目撃者なんです。
前日の夜、僕は象と飼育員のある不思議な変化に気づきました。
それは「バランス」
象が小さくなっているのか、飼育員が大きくなっているのか
定かではないけれど二人の大きさが等しくなっていくのを確かに目にし、
次の日には彼らは消滅していました。
ーーーどういうことか
この世界は、否応なしに暗黙の了解として、
バランス、つまり統一性が支配しているようです。
例えば、キッチン。
キッチンを扱う会社で働く僕はこのように話します。
一番大事なポイントは統一性なんです。どんな素晴らしいデザインのものも、周りとのバランスが悪ければ死んでしまします。色の統一、デザインの統一、機能の統一...それがキッチンに最も必要なことなんです。(本文抜粋)
つまるところ、象と飼育員は、今の世で最も必要な、バランスを失ったのでしょうか
よって彼らはこの世界から消滅したのか、それとも消滅させられたのか。。
今や私たちにとっては当たり前になっている
「バランス」「統一性」ってなんだろう、
それは皮肉にも、一種の「歪み」でもあるといえるかもしれません。
村上春樹さんの小説は、読んで何かに活かすとか自分を成長させるとか
直接的にはそういうものではないと思います。
ただ、それを通して自分の心、傷を追体験する機会を与えてくれます。
深くて難しいけれど、その難しささへ、心地よくなっています。笑
お洒落で分量もそんなになくって、「像の消滅」オススメです、
また、消滅するのが、象っていうのも、何だかいいですよね
最後まで読んでいただきありがとうございました。
皆さんの明日がより良い1日になりますように!